こんにちは、ママ薬剤師M子です。今回は、特定のお薬ではなく「漢方の弁証」について書いていきます。
子育てに追われていると、自分の体調は後回しになりがちですよね。 「なんだか最近疲れやすい…」 「イライラすることが増えたかも?」 そんなとき、もちろん病院で診察を受けることをお勧めしたりもしますが、今はOTCを自分で選ぶという選択肢もあります。そして、意外と多く販売されているOTCの「漢方薬」。種類が多すぎて何を選べばよいかわからないという方がほとんどではないでしょうか。今回は、このときに役立つかもしれない、「弁証(べんしょう)」という聞きなれないかもしれないキーワードを基に解説します。

漢方薬って聞くけど、なんだか難しそう…。「弁証」??なにそれ?と思いますよね。M子も薬剤師でなかったら、あまり気にしないかもしれません。
今日は、そんな漢方の基本である、「弁証(べんしょう)」について、できるだけカンタンにお話ししたいと思います。 これを知っておくと、自分の体調や、もしかしたらお子さんの体調をみるときにも、ちょっと役立つかもしれませんよ!
そもそも「弁証」ってなぁに?
「弁証(べんしょう)」というのは、一言でいうと「漢方的な体質診断の方法」のことです。
病院で行う血液検査やレントゲンによる検査とはちょっと違って、その人の今の症状や体質、体力などを総合的に見て、「今、あなたの体はこういうバランスになってますよ」と見極めるための、「漢方のモノサシ」みたいなものなのです。

私が漢方薬を選ぶとき、まず頭に浮かべるのがこの「弁証」です。ちょっと難しい言葉も出てきますが、ポイントを押さえれば,漢方の話がスッと頭に入ってきやすくなるので、ご紹介してみることにしました!
漢方には色々な「弁証」があるのですが、今回はM子がよく使う(そして漢方の基本となる)3つの「弁証」を紹介しますね!
- 八綱(はちこう)弁証
- 気血水(きけつすい)弁証
- 臓腑(ぞうふ)弁証
① 八綱弁証(はちこうべんしょう):体調を8つのモノサシでチェック!
これは、今の体の状態を、[8つのカテゴリー(大まかに4つの対になるペア)]で分類する、一番基本的な方法です。文字の意味だけでは伝わりにくいため例や絵も踏まえて書いていきます。
表裏(ひょうり):症状はどこにある?

まずは、表裏(ひょうり)です。
- 表(ひょう):体の表面に症状がある状態。
- 場所:中枢神経・末梢神経と皮膚に関連する場所
- 例:頭痛、関節の痛み、皮膚の症状など。風邪のひきはじめなど。
- 裏(り):体の内部(奥深く)に症状がある状態。
- 場所:消化管に関連する場所
- 例:お腹の調子(便秘、下痢、吐き気)、胸の苦しさなど。
- 半表半裏(はんぴょうはんり):表裏の間に病が位置している状態
- 場所:筋肉、血液、リンパに関連する場
- 例:風邪がこじれて、熱が出たり寒気がしたりを繰り返す、食欲がなくなって吐き気がする…みたいな状態。
寒熱(かんねつ):冷えてる?熱っぽい?

続いて、寒熱です。
- 寒(かん):体が冷えている状態。
- 例:手足が冷たい、温かい飲み物を欲しがる、寒がり。
- 熱(ねつ):体に熱がこもっている状態。
- 例:顔が赤い、のどが渇く、冷たいものを欲しがる、暑がり。

寒熱は、その名の通りですが、実際の症状よりも自覚症状が判断軸となります。
たとえば、高熱(熱)が出ていても、風邪の初期症状でよくある、本人が「寒い!」(寒)と感じていたら、「寒」と判断することがあるんです。不思議ですよね!
虚実(きょじつ):エネルギーの状態は?

次に虚実(きょじつ)です。これは、その人の体力、体形や抵抗力、または病原体の活発度合いを見ています。
- 実(じつ):体力や抵抗力が充実している状態(日本漢方での診かた)。または、病原体が活発になっている状態(中医学での診かた)。
- (例)ガッチリ体型で声も大きい、症状の出方がハッキリしている。
- 虚(きょ):体力や抵抗力が不足している(虚弱な)状態。
- (例)疲れやすい、声が小さい、食が細い、病気が長引きやすい。

例を見ていただけるとわかりやすいのですが、虚実はその時の状態を指すため、今月は「実」だけど、先月は忙しくて「虚」の状態であった。というのは、あります。なので、毎回の評価が大切です。
陰陽(いんよう):全体のバランス

陰と陽は、自然界すべてのものを「陰」と「陽」 の相反する2つの要素でとらえ、相互に対立・依存しながら絶えず変化しているという考え方です。陰が悪い、陽が良いというものではなく、陰と陽が中立である状態が望ましいとされています。
- 陰(いん):静か、冷たい、暗い、体の内部、慢性的な状態。
- からだの部位では下部、体内、腹、四肢の内側、左右では右など
- 陽(よう):活動的、温かい、明るい、体の表面、急性の状態。
- からだの部位では身体の表面、背中側、上部、四肢の外側、左右では左、口から肛門までの臓器
「体が寒いと感じる(寒)」や「疲れている(虚)」の要素が強ければ「陰証(いんしょう)」、「暑いと感じることが多い(熱)」や「体力は結構ある(実)」の要素が強ければ「陽証(ようしょう)」、というように、前の六網を総括する基準です。総合すると、表・熱・実は陽に分類され、裏・寒・虚は陰に分類されます。
② 気血水(きけつすい)弁証:体をつくる3つの要素

次に、「気血水」について触れていきたいと思います。これは、体を作っている基本的な3つの要素「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」のバランスが崩れていないか?を見る方法です。
「なんだか不調…」の原因が、ここにあるかもしれません。
「気(き)」:目に見えない生命エネルギー
「元気」の「気」です!体を動かしたり、温めたり、病気から守ったりする、目には見えないパワーの源。
- 気虚(ききょ):「気」が不足している状態。
- 症状:とにかく疲れやすい、やる気が出ない、食欲がない、声に力がない、日中から眠い、風邪をひきやすい。ママあるあるかも…
- 気滞(きたい):「気」の巡りが滞っている状態。(「気うつ」とも言います)
- 症状:イライラしやすい、不安感、気分が落ち込む、のどが詰まった感じ、お腹が張る(ゲップやオナラが出やすい)ストレスが大きな原因になることも!
「血(けつ)」:全身に栄養を届ける赤い液体
西洋医学の「血液」と似ていますが、漢方では全身に栄養を運ぶだけでなく、精神活動(思考など)を安定させるなど、西洋医学以上の働きもあると考えます。
- 血虚(けっきょ):「血」が不足している状態。(栄養不足)
- 症状:顔色が悪い(青白い)、めまい・立ちくらみ、目が疲れる、髪がパサつく、爪が割れやすい、筋肉がけいれんする(こむら返りなど)、月経トラブル(量が少ない、周期が長くなる)など。
- 瘀血(おけつ):「血」の巡りが悪い・滞っている状態。(ドロドロ血イメージ)
- 症状:肩こりや頭痛(痛む場所がハッキリしている)、シミ・そばかす・くすみが気になる、手足の冷え(特に末端)、月経痛がひどいなど。
「水(すい)」:血以外の体液すべて
体をうるおし、関節の動きを滑らかにする、「血」以外の水分のことです。(中医学では津液(しんえき)とも言います)
水毒(すいどく) または 水滞(すいたい):「水」が滞っている・偏っている状態。(水はけが悪いイメージ)
症状:むくみやすい(特に下半身)、体が重だるい、冷えやすい(特に下半身は冷えるのに顔はのぼせることも)、めまい、耳鳴り、乗り物酔いしやすい、お腹をたたくとポチャポチャ音がする。

実はM子も…産後しばらく「気虚」と「血虚」がダブルで来ていたんです(涙)。寝ても疲れが取れないし、無気力だし、生理も不順になるし…。まさに育児ママの典型的な不調ですよね。
その時は、漢方薬(当帰芍薬散や加味帰脾湯、補中益気湯など)の力を借りて、少しずつ回復しました。この体験談は、また別の記事で詳しくお話ししますね!
③ 臓腑弁証(ぞうふべんしょう):不調はどの「臓器」から?
これは、体の不調が「五臓六腑(ごぞうろっぷ)」のどこから来ているかを探る、ちょっと詳しい方法です。 (さっきの「八綱弁証」で「裏(体の内部)」に問題がありそう!となった時に、さらに詳しく見る感じです)
五臓(ごぞう)とは?
漢方でいう「五臓」は、西洋医学の「臓器単体」とは少し違い、「働きごとのグループ」みたいなイメージです。
- 肝(かん):気の巡りを調整(自律神経系)、血を貯蔵、精神状態。
- 心(しん):血を巡らせる、精神・意識(心臓+脳の一部)。
- 脾(ひ):消化吸収、栄養を全身に運ぶ(胃腸の働き)。
- 肺(はい):呼吸、水分調節、バリア機能(肺+皮膚)。
- 腎(じん):成長・発育・生殖(ホルモン系)、水分調節、生命エネルギーの貯蔵。
六腑(ろっぷ)とは?
五臓のパートナーみたいな存在です。(こっちは割と臓器そのままですね)
胆(たん)、小腸(しょうちょう)、胃(い)、大腸(だいちょう)、膀胱(ぼうこう)、三焦(さんしょう:気と水の通り道)
たとえば、「最近イライラして眠れないし、目の充血も気になる…」というママがいたら…
「もしかして、気の巡りを調整する『肝』の働きが乱れてるのかな?(=肝の不調)」
みたいに考えたりします。
まとめ:まずは自分のタイプを知ることから
今日は漢方の「弁証」について、M子がよく使う3つの方法をざっくりお話ししました。
- ① 八綱弁証:体調の全体像(表か裏か?冷えてるか熱いか?元気か虚弱か?)
- ② 気血水弁証:体の構成要素(エネルギー、栄養、水分のバランスは?)
- ③ 臓腑弁証:不調の中心はどこ?
もちろん、全部覚える必要はありません!
「へぇ〜、漢方ってこんな風に体を見てるんだな〜」と感じてもらえたら、それだけで十分。
もし、「私の体質ってどれに当てはまるんだろう?」と気になったら、お近くの薬局・薬店の薬剤師や、漢方の専門家に気軽に相談してみてくださいね。
毎日がんばるママ・パパが、少しでも元気でいられますように。 これからも、ママ薬剤師M子として、お薬や健康の情報をわかりやすく発信していきますね!




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